※書評に際して:本書の提供を受けましたが、金銭の授受は全く無く、書評内容についても公開前のチェックは全くありませんでした。
ただし、条件として、1. 【表題】、2. 【オカヤドカリの本】というワード(検索用)、3. 【ホームページアドレス】、4. 【本の写真1枚程度】の記載の指定があったため、本文の中にちりばめてあります。
笹塚 諒, 2024, オカヤドカリ:Land Hermit Crab in Pacific Rim. ジェイズ・エンタープライズ, 東京. 82pp.
【著者さまホームページ】:販売スケジュール等はこちらでご確認ください。
https://ones-habitat.com/landhermitcrab
さて、今回の記事は、いつものブログとは毛色がかなり違う「書評」です。
細々と16年以上運用しているこのブログですが、縁あって、新しく出る「オカヤドカリの本」の書評を書かせていただくことになりました。
はじめは、Twitter(Xとは書きませんので、気になさる方は以降心の中で読み替えてください)にて、フォロワーがリツイートしていた下記のツイートでオカヤドカリの本が新しく作られたことを知りました。
環太平洋を這い廻って完成させた力作の本
オカヤドカリ
Land Hermit Crab in Pacific Rim
の現物がついに届きました
販売スケジュールはもう少々お待ちください
と、ここで販売前にご協力の依頼を2点展開させてください
ご協力いただいた際は1冊無料配布させていただきます
内容は以下のとおりです pic.twitter.com/BT2CdJKoio
— いさゆ (@Tumon_Bay) September 6, 2024
■ 僕とオカヤドカリ
僕とオカヤドカリに関する話を少しだけ紹介しますと、
小学生の頃に家族で行った沖縄旅行でオカヤドカリを知り、
りゅうか商事さんが那覇空港で販売していた生体を買って貰ったのがきっかけで、滋賀の実家で飼育したり、いろいろ飼い方を調べたりしていました。
"オカヤドカリ見聞録"さんは何度も見ていましたし、長期飼育されていた"偏屈の洞窟"さんのページも、毎回の更新を楽しみにしていました。
その後、オカヤドカリの研究がしたいと思い、彼らが生息している「沖縄」、かつ「生物系がある」琉球大学理学部に進学し、
研究室の先生の多分なご厚意のもとに、希望通りオカヤドカリの研究をすることができました
卒業論文(2014):「沖縄本島に生息するナキオカヤドカリCoenobita rugosus の生殖の季節性と放幼生行動」
修士論文(2016):「沖縄島に生息するナキオカヤドカリCoenobita rugosus雌の生殖活動と放幼生行動の周期性」
博士論文(2022):「A study on the biological periodicity of reproductive activity of the terrestrial hermit crab Coenobita rugosus in Okinawa-jima Island: Comparison with the marine hermit crab」(沖縄島におけるナキオカヤドカリCoenobita rugosusの生殖活動の周期性に関する研究:海産ヤドカリとの比較)
上記からも分かるとおり、僕は「オカヤドカリ類の生殖に関する行動の周期性」に興味があります。
滋賀に居た頃から、(オカヤドカリについてもっと知りたい~!)と思っていたことから、いろいろな書籍等も集めていました。
日本語で書かれたオカヤドカリの本というものはほとんど存在せず、図鑑のオカヤドカリのページや、オカヤドカリについて記載された章のページの端を折ったりする等して飢えをしのいでいました(?)。
↑ オカヤドカリが取り上げられているページの端を折っている様子
オカヤドカリの本において別格かつ伝説ともいえるのは、
沖縄県教育委員会が発行している「沖縄県天然記念物調査シリーズ第29集 オカヤドカリ生息実態調査報告 あまん(1987年)」*1、およびその続編ともいえる、
「沖縄県天然記念物調査シリーズ第43集 オカヤドカリ生息実態調査報告書Ⅱ(2006年)」*2 でしょう。
オカヤドカリの種や生態、民俗学的視点からの調査など、かなり細かく記載された調査報告書です。
ただ、残念ながら、滋賀では入手することはおろか中身を見ることもできず、琉大に進学してからその附属図書館にて初めて中身を拝むことができ、感動でした。
なお、“あまん”における放幼生行動の部分の内容に関しては、仲宗根先生が書かれた論文(英文) *3が存在しますが、それを知ったのはかなり後の話。論文自体もフリーアクセスではありませんからね。
その後、「あまん」は古本屋で入手し、「Ⅱ」のほうは図書館から処分される寸前のものを研究室の先輩が確保してくださり、2冊とも所持するという夢を叶えることができました。(とても感謝!)
オカヤドカリ好きな一般人としては揃えておきたかった「オカヤドカリ生息実態調査報告書 あまん」2冊をやっとゲットできた。あんた達サイズ違ったんか…
1冊目は最近古本屋で買ったもの、2冊目は附属図書館からの廃棄を貰ってきたもの。 pic.twitter.com/9QNqtSikRM
— なおたん (@signofnight) March 25, 2021
また、オカヤドカリの本に限らず、オカヤドカリを題材にしたグッズなどは、見かけたら欲しくなってしまう人間でもあります。
最近購入した「金属ヤドカリ」:イワシ金属化さまの作品。うみねこ通販さまで購入。
おそらくオカヤドカリがモデルです。
がっしりした体格に左側の大きいはさみ脚(:左側大鉗脚)が特徴かな?
「オカヤドカリであれ」という希望的観測も含まれているかも…。
そういう特徴を持つ僕に、さきほどのツイートが突き刺さるわけです。
欲 し い ~ ~ っ !環太平洋を這い廻って完成させた力作の本
オカヤドカリ
Land Hermit Crab in Pacific Rim
の現物がついに届きました
販売スケジュールはもう少々お待ちください
と、ここで販売前にご協力の依頼を2点展開させてください
ご協力いただいた際は1冊無料配布させていただきます
内容は以下のとおりです pic.twitter.com/BT2CdJKoio
— いさゆ (@Tumon_Bay) September 6, 2024
「(…前略…)所属も何もない野良の素人が自分で撮った写真と文で作ったものだから(…後略…)」と仰っています。
今回の書評依頼についても、その考えあってこそのものだと考えられます。現物見ての判断
大歓迎です
所属も何もない野良の素人が自分で撮った写真と文で作ったものだから、想定よりショボい可能性を考慮するのは普通です
ぜひブースに寄って見て行ってください
無料配布のポストカードも置いてますんで https://t.co/b6fOemrmKK
— いさゆ (@Tumon_Bay) September 19, 2024
氏の興味はオカヤドカリに限らず、ヤドカリ類も含まれるようで、「シロサンゴヤドカリの上陸行動」*6という、オカヤドカリではない海棲のヤドカリが陸を経由して移動し、内陸に人工的に作られた海水環境へ進出した旨の記録を報告しているものもある。これはヤシガニも同様
左が緊張している
右が緊張していない
ヤシガニは刺激を受けると緊張して弱い部分を守りながら逃げるため、構図考えてウダウダやったり触ったりすると緊張解除がめちゃくちゃ困難になる pic.twitter.com/DHMNu0pvkT
— いさゆ (@Tumon_Bay) September 17, 2024
“ちなみに研究者や保全関係者、写真家、ショップなどの生き物に関わる仕事をしてるわけではないです。”の通り、氏は社会人として働きつつも、趣味として海外を含むフィールドに赴き、様々な写真を撮影しているようだ。
他にも、先行販売(2024年9月22日)の感想を受けて、氏のこだわりがあふれ出たツイートをいくつか載せておく。地平に沈む夕日を背景にしようとするとタイムリミットは10分程度
逆光の中、弱めのストロボでオカヤドが暗くならないようにしつつも秒単位で明るさが変わる状況
そこに加えて緊張させずに触角を延ばして歩いている被写体を絶妙な構図で写す大変さたるや https://t.co/f4OMC5J6mT
— いさゆ (@Tumon_Bay) September 24, 2024
ハクボの下の写真も
寂しさを感じるスコリア由来の黒めの砂浜に佇むムラサキオカと、その奥に広がる暮れて直ぐの紺碧の空とそれを写す海、そして遠くに僅かに見える生活圏の光を1枚で表した内容になってます
自信作
— いさゆ (@Tumon_Bay) September 24, 2024
小型のオオナキという珍しめの被写体を強調するため絞りを開いて背景の岩壁をボカしつつも、一面の岩壁とせずに木漏れ日を被写体の対角に入れることを意識した一枚
このこだわりを見抜きますか https://t.co/GjXLyPn9CR
— いさゆ (@Tumon_Bay) September 24, 2024
その後、本書は“生活”、“生態系での役割”、“繁殖”、“生活史”、“宿貝の役割”、“防御行動”、“脱皮と再生”、“名と宗教・民俗”、“飼育”、“コラム”、“短報”と続く。
それぞれ見開き2ページに収められつつも、“名と宗教・民俗”など、いわゆる生物学ではない範疇の内容も記載されており、さながら“ミニ「あまん」”ともいうべき内容となっている。
(※「あまん」*1は、オカヤドカリの呼び名の地域差、ハジチ(入れ墨)としてのデザインや、”オカヤドカリ葬”、"教育題材としてのオカヤドカリ"などの章がある。)
本来であれば、それぞれの章について細かく紹介した上で評したいが、内容を全て書いてしまいそうで、かつ文量が多すぎて読みづらくなると思われる為、簡単に箇条書きで紹介および指摘、感想を記載する。
・“生活”の章における54ページ下部の写真は素晴らしい。いったいどれだけの徳を積めば、これだけの撮影タイミングに巡り会えるのだろうか?
・"繁殖"の章については、私が大好きな分野だからか、もうちょっと書いてほしい内容(種による放幼生タイミングの違い・卵巣発達・抱卵された胚の発生過程等)もあったが、2ページに収めるという制約上、本書のように簡潔にまとめるのが正解であろう。
また、“放幼”という語の定義がされていないため、“放幼生"または"幼生放出"と書く方が良いかもしれない。
・“宿貝の役割”の章では、貝殻内の水分の詳細(真水ではなく、海水がベースで種によって濃度にバラツキがある)についての記載があっても良かったかもしれない。
・飼育環境について、15℃を下回らないようにする旨の記述があった方が良かった。
・幼生飼育は一般人には難しいと思われるが、結構サラッと書いてあり、さすがだな…と思わせられた。
・“脱皮と再生”の章にある、自切した歩脚の脱皮による再生についての写真は必見。70日での変化を写真で追っており、再生の過程がとても分かりやすい。
・"飼育"の章では、まさかの「衣装ケース」での飼育がベストと書いていて、生物屋目線だなぁと笑ってしまった。(脱走を考慮すると性能面では確かにベストだが、一般人は普通、観賞用としてオカヤドカリを飼育するのではないだろうか…?)
~書評ではないが、そのほかほんの少し気になった部分~
※もし第2版等があれば考慮して貰えると嬉しいかも?
・ページ数表示の無い部分がある。
写真と被るページには表示しないのか?と思いきや、そういうわけでも無い様子。一定のルールに従って表示の有無を決めた方が良い。
・5ページ:オカヤドカリ科は17種と書かれているが、4ページ(18種:オカヤドカリ属17種+ヤシガニ属1種)との齟齬がある?
・27ページ「大宗」は一般ではあまり使わない言い回しでは?(大部分、の意。一部の業界でよく使われる語か? )
・無くても文章読解に影響のない接続詞が時折見られる。
→「つまり」(55p右上、61p左下)、「いうまでもなく」(42p上、44p下、61p右上)、「もちろん」(p3右上)等
・読解しづらくなる否定表現が時折見られる。(例:少なくない、珍しくない)
文章については、人の好み等が多く出る部分であるので、”私はこう思った”程度で読んでいただけると幸いである。ただ、編集者とまではいかないかもしれないが、文章や写真の体裁を見てくれる別の人が居ても良いとは感じた。
■まとめ
本書についてまとめると、
・種判別に役立つオカヤドカリ図鑑
・個人で撮影したとは思えない美麗な写真たち
・ミニ「あまん」とも呼ぶべき、オカヤドカリ類について包括的にまとめられた情報
…の3点であるといえよう。
特に3点目について、「あまん」*1は現状簡単に読むことができないため、オカヤドカリ好きにとっては本書を入手するのが一番の良い情報源になるのではないだろうか?
それが2000円+税で手に入るものなら、安いものだと私は思う。
氏は「高額だから…」と仰っていたが、上記の価値プラス、撮影や執筆に対する労力を踏まえると、たとえ6000円でも購入する価値はある。
惜しむべきは、個人による出版であることから、本書が継続的に購入できるものでは無さそうなことくらいか。(10年後に買えるか?となると怪しいと思われる。)
・・・・・
オカヤドカリファン/フリークなら必携ともいえる本書。
販売については冒頭の通り著者HP参照ですが、2024年9月26日現在の情報だと
・2024年10月26日 いきもにあ(@京都市勧業館 みやこメッセ1F 第2展示場)ブースNo.170 にて本格販売開始(土曜のみ)
・2024年10月27日 通販開始
とのことなので、期待してお待ちください。
次は”Land Hermit Crab on Earth”ですかね?
(あとは個人的に、世界で唯一の”淡水に棲むヤドカリ”、Clibanarius fonticolaを探しに行くバヌアツ探訪記とかも見てみたいなと…。
自分でやれって??いやぁ厳しい…)
では!